起業の潮流
『中小企業白書2023』からわかる起業のヒント
公開日:2023.08.10
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起業の潮流
公開日:2025.10.28
「中小企業白書」は、中小企業庁が中小企業基本法にもとづき毎年まとめ、閣議決定後に国会へ提出する年次報告です。中小企業の動きや課題、政府の施策をデータと事例で整理しており、日本国内の中小企業の現状を把握することができます。
中小企業者にとっては円安・物価高の継続、金利上昇、人手不足等、厳しい状況下にあることから、2025年版では経営者の「経営力」に焦点が当てられています。
経営の外部環境の把握や創業計画の策定、経営者としての心構えやどのように資金調達や公的支援を生かすかなど、起業・創業の時流をはじめ、支援者側として押さえておきたいポイントに絞って紹介します。
まず、毎年中小企業白書で発表されている開廃業率を見ていきましょう。
2023年版の「開業率」は、2022年版から横ばいの3.9%、「廃業率」は、2022年版から上昇し、3.9%となっています。

なお、開業業種では、日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」を見ると、「サービス業」の割合が29.2%と最も高く、「医療・福祉」が15.7%、「飲食店・宿泊業」が14.5%と続いています。
それでは、2025年版中小企業白書の中で、起業家や起業支援者のヒントになりそうな部分をピックアップしていきます。
中小企業白書では、創業者が事業成功に活かせる方法として、主に以下を挙げています。
①経営者のリスキリング
②経営者同士の交流
③事業計画の策定
④支援機関の積極活用
中小企業白書の中では、経営環境の変化が激しい現在、経営者自身が学び直し(リスキリング)を行うことが重要だと指摘されています。
白書の調査によれば、実際にリスキリングに取り組んでいる中小企業経営者は約3割程度にとどまっています。

しかし、若い経営者ほど意欲的に学び直しに取り組む傾向があり、成長志向の強い企業ほど経営者がリスキリングに積極的です。逆に「現状維持」で良いと考える経営者ほどリスキリングに消極的であることも示されています。
リスキリングによる効果もデータで示唆されています。経営者がリスキリングを行っている企業は、行っていない企業に比べて売上高や付加価値額の伸びが高い傾向があり、経営者の学ぶ姿勢が企業の成長につながる可能性があります。

また、経営者が身につけたいスキルとしては「経営戦略」や「管理職の職務・リーダーシップ」といった経営能力向上に関するものが最も多く、次いで「マーケティング」や「IT活用」など実務面のスキルが挙げられています。

今から起業・創業される方も、起業の準備をしつつも、積極的な学びの機会を得ることが大切です。特に、起業をする上で必須になるスキルや、苦手意識を感じているスキルについては、公的なセミナーや研修などを活用したりオンラインの講座を受講したりして補填していくと良いでしょう。白書においても、経営者のリスキリングの方法として、「書籍からの知識収集」「外部研修の受講」など、比較的ハードルの低い手段が挙げられています。将来的に従業員が増えた時も、経営者自身が学びの姿勢を見せることにより、スキルアップに積極的な社内文化を築くことが可能になります。
起業家同士のネットワークや交流も、事業成功の重要なカギです。他の経営者との情報交換や刺激は、新しい発想や学びにつながります。
中小企業白書によれば、中小企業経営者の約7割が何らかの経営者ネットワーク(異業種交流会や同業種の組合など)に参加していると回答しています。企業規模が大きいほど参加率は高い傾向にありますが、小規模事業者でも地域の経営者仲間とつながりを持つケースは少なくありません。
特に、自社とは異なる業種・地域の経営者との交流は大きな効果をもたらします。異業種や広域のネットワークに積極的に参加している経営者は、「成長に向けた新たな発想を得られた」「成長意欲が高まった」と感じる割合が高く、こうした交流が経営者のモチベーション向上につながっていることがデータから示唆されています。

また、幅広い経営者との交流を持つ企業ほど経営者自身がリスキリングに取り組む割合も高く、業績の伸びも平均して高い水準にあることが確認されています。

起業家は悩みや課題を一人で抱え込みやすく、孤独になりがちです。特に起業してからの数年間は、経営者交流会を積極的に活用すると良いでしょう。経営者交流会では、同じような視座を持った方にたくさん出会うことができます。
私が創業支援の中で、また、私自身の経験の中で感じた経営者交流会のメリットとしては、下記のようなことが考えられます。
1.経営者同士の会話を通じて、現在の課題解決の糸口を探ることができる
2.異業種との出会いにより、コラボレーションや協業の可能性を探ることができる
3.最新情報に触れてビジネスチャンスを掴む可能性を高めることができる
4.先輩経営者から成功事例・失敗事例を学ぶことができる
ただし、ただ漫然と経営者交流会に参加しているだけでは、時間やお金が無駄になってしまいます。せっかくの機会を無駄にしないために、下記のようなことに気をつけましょう。
1.明確な目的を持って参加する
2.事前に参加者リストを確認し、誰とコミュニケーションを取るか考えておく
3.自己紹介の文章を考えておき、自社の強みや得意分野を明確に伝えられるようにする
4.名刺交換するだけでなく、今後もコミュニケーションを続けたい方にはお礼メールなど事後のフォローアップをする
経営者交流会の場を活かすことで、事業を早く軌道に乗せるチャンスが拡大します。
起業支援機関では、起業を考える方、起業家に事業計画の作成をお勧めすることが多いのではないでしょうか。
起業家が頭の中で思い描いている事業を計画書の形に落とし込むことで、より事業の輪郭がはっきり見えるようになり、客観的な視点から考えることができるようになります。
また、起業後は、融資や補助金・助成金を受ける場合、ビジネスパートナーにプレゼンする場合など、事業計画書が必要になるケースも多いですよね。必要になった時に慌てて作るのではなく、事前に作成しておくことで落ち着いて準備できるようになります。
起業準備中は日々の対応に追われがちですが、時間を取ってでも先を見据えた事業計画を作る意義は大きいといえます
中小企業白書によると、経営計画(事業計画)を策定している中小企業は全体の約5割に過ぎません。さらに、計画の期間について見ると「3年以内」の短期計画が過半を占め、5年以上の長期ビジョンを持つ企業は1割程度にとどまります。

一方で、計画を作っていない企業の理由としては「時間的余裕がない」「環境変化が激しく先が読めない」「必要性を感じない」などが挙げられています。
事業計画を策定・活用している企業は、経営面でさまざまなメリットを実現しています。計画を立てた結果、「経営状況の把握」や「自社の強み・弱みの理解」ができたとする経営者が多く、次いで「業績の向上」を実感したケースも多いと報告されています。

実際、事業計画を策定している企業は、策定していない企業に比べ、売上高や付加価値の伸びが高い傾向が見られました。これは、計画づくりを通じて目標や戦略が明確になり、組織が一丸となって取り組めることが要因の一つと考えられます。

また、資金調達の面でも事業計画は重要です。金融機関の約8割が創業時の融資審査で事業計画を重視すると回答しており、計画がしっかりしていることがスムーズな融資につながるとされています。
私は、事業計画書の中で、収益計画や資金計画などの数値計画は特に大切だと思っています。起業家の頭の中は熱い想いや理想でいっぱいなものですが、実際に売上や費用、初期投資を数値に落とし込むのは頭が痛いものです。
また、数字に苦手意識を持っている方も多いでしょう。しかし、そのような「産みの苦しみ」を持って数値計画を立てることで、見えていなかった経営課題が浮かび上がり、事業のリスクも見えやすくなります。
数値計画の策定は、起業家一人では難しいことも多く、支援者のサポートが最も必要とされる部分です。
中小企業白書では、スケールアップに向けて中小企業が「独力では対応が難しい」と感じやすい領域として、主に①人材確保・人材育成、②デジタル化・DX、③経営計画の策定や資金繰りを挙げています。

特に年商10億円未満の企業では③経営計画の策定や資金繰りの比重が高まりやすく、規模が大きくなるにつれて脱炭素・GX対応やM&A、海外展開などの比率が増える傾向が示されています。
こうした課題に向き合ううえで、年商10億円以下の企業を中心に支援機関の活用が広がっており、多くの企業が「大いに活用」「ある程度活用」と回答しています。

さらに2024年の売上動向を見ると、支援機関を活用している企業の方が、活用していない企業に比べて売上高や付加価値が「増加」となる割合が高い傾向が確認できます。

今から起業する方に関しても、独力で抱え込まず、金融機関・商工団体・専門家などの支援機関と伴走しながら、計画策定や人材確保・デジタル化を進めていくことが、着実なスケールアップにつながりやすいといえます。
2025年版中小企業白書には、ここで紹介しきれなかった内容も含め、起業家に役立つ示唆が多数盛り込まれています。公式サイトにも目を通し、国の最新レポートから起業家にとっては今後の事業運営のヒントが得られるでしょう。

起業を支援する側にとっても、「令和7年度において講じようとする中小企業施策」(第2部 新たな時代に挑む中小企業の経営力と成長戦略)では支援の方向性の記載もあり、起業家が置かれている現状、中小企業を取り巻く環境やトレンドを押さえておくことができます。
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