起業家教育
【起業家教育の現場から】はじめに~なぜそれほどまでにアントレプレナーシップ教育に熱を...
公開日:2022.11.11
Theme
起業家教育
公開日:2025.12.23
文部科学省の日本国内の大学、短期大学、高等専門学校等におけるアントレプレナーシップ醸成に向けた調査によると、アントレ教育の普及は上昇傾向で実施大学は増えている。「起業の有無に関わらず、アントレプレナーシップを身に付けた人材を定常的に輩出すること」が同教育の基本的な考え方とされているが、では実際にどんなことが行われているのか? 2025年9月に実施された同志社大学が学生向けに行ったアントレプレナーシップ醸成のワークショップから、企画目的、実施内容、今後の方針を紹介する。
近年、高等教育機関におけるアントレプレナーシップ教育が拡大しています。
文部科学省が実施した令和6年(2024年)度の調査(※1)では、約40%(871校中348校)がアントレプレナーシップ教育を実施し、2020年の約2.2倍に増加しています。

大学発新産業創出プログラム「START」(大学・エコシステム推進型スタートアップ・エコシステム形成支援)(※2)に参画する大学等に絞ると、90%がアントレプレナーシップ教育に取り組んでおり、2022年度調査と比較して10校増加しています。
こうした潮流のなか、今年創立150周年を迎える同志社大学にて、1.5日間のアントレプレナーシップ教育プログラム(※3)を実施しました。
※1 令和6年度全国アントレプレナーシップ醸成促進に向けた調査分析等業務報告書
※2 START:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が実施する研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム
※3 主催/同志社大学研究開発推進機構 リエゾンオフィス、企画・運営/株式会社ツクリエ
本企画が立ち上がった経緯と課題を、本プログラムの主催である同志社大学研究開発推進機構 リエゾンオフィスの起業支援コーディネーター、古川和彦さんに伺ったところ、「昨年度からアントレプレナー育成イベントやプログラムを体系的に整備してきました。以前は、特許セミナーや新規事業立ち上げプログラムなど実践的な内容のプログラムしかありませんでしたが、昨年度からは、学生や卒業生起業家によるトークイベントや起業マインド醸成セミナー、資金調達セミナーなども企画しラインナップを広げてきました。今年度からは正課プログラム(同志社イノベーション・ゲートウェイ)とも連携して、アントレプレナーシップ教育の裾野を拡大しています。しかし、起業に関心を持ち始めた学生が事業化検討に進む際、起業マインドを実際に行動に移す中間的なステップが不足していました。そこで今回、興味段階から事業化検討段階への橋渡しとなるプログラムを新たに企画しました」ということでした。
議論を重ねる中で生まれたのが、今回の1.5日間のプログラム「私の「軸」ってナニ?~自己理解から始める起業家型リーダーシップ~」です。
「私の「軸」ってナニ?~自己理解から 始める起業家型リーダーシップ~」のワークショップは以下のように構成されました。
Day1は、インプットレクチャー、先輩起業家によるトークセッション、「理想の働き方」を可視化するカードゲームを実施。Day2は、レゴ®ブロックを用いたワークを行います。これらを通して自分の過去の経験を掘り下げ、「なぜ自分はそう感じるのか」という “自分の軸”を言語化していきます。
インプットレクチャーでは、株式会社ツクリエ代表・鈴木英樹より起業に欠かせない“Why(なぜ自分がやるのか)”という視点が共有されました。
起業家は、従業員・家族・金融機関など、あらゆる関係者から「なぜあなたがやるのか」と問いを受ける立場にある。だからこそ、「動機=自分の軸」を明確にしておくことが欠かせない、という内容です。
自身の失敗や再挑戦の経験談を交えながら、「起業は目的ではなく、実現したいことのための手段」という考え方が語られました。参加者からは、「Why(なぜ自分がやるのか)を大切にする理由が分かった」という声が寄せられ、起業の捉え方について考えるきっかけになった様子が伺えました。

株式会社ツクリエ代表取締役鈴木より起業に欠かせない視点を共有
続く先輩起業家トークセッションでは、株式会社ADimer(エメ)代表取締役 神野航汰さん(同志社大学 法学部4年)、株式会社AKiKOMA代表取締役 御前星真さん(京都産業大学 現代社会学部2年)が登壇。モデレーターは、株式会社ミライクルラボ 代表取締役 渡邉涼太さんが務めました。

神野さんが代表を務める株式会社ADimer(エメ)は、主に広告制作と企業のプロモーションを行っています。最初の起業では思うように売上が伸びず、どうにかしなければと修行のために休学し東京の広告代理店に入社。親には「エンジニアになるための就活」と告げ、就活を装いながら、4畳のシェアハウスで起業準備を進めていたと言います。

株式会社ADimer(エメ)代表取締役・神野航汰さん(同志社大学法学部4年)
一度はチームが思うように機能せず、立て直しを迫られましたが、先輩経営者に学びながら「人がついていく組織」を模索し続けました。
そんな経験を経た神野さんが掲げるビジョンは、「日本中を、熱狂の渦に」。「一日のうち、最も多くの時間を費やすのは仕事。その時間を楽しみ、没頭できるかが幸福度に関係してくると思っています。自社のメンバーが熱狂できていると、その熱にクライアントが乗っかってくれる。商品やサービスがもっと広がっていく。その連鎖こそが、日本の幸福度を上げると考えています」。
もう一名の先輩起業家は、ビジネスコンテストで数多く受賞し、京都産業大学発ベンチャーに認定された株式会社AKiKOMA代表の御前さん。学生と企業をスキマ時間で繋ぐ就活プラットフォームサービス「あきコマ」や、カジュアルな就活イベント「就活ランチ」の企画運営を主に行っています。

株式会社AKiKOMA代表取締役・御前星真さん(京都産業大学 現代社会学部2年)
御前さんから語られたキーワードは、「行動」。高校時代から起業に関心があったものの、一歩を踏み出せずにいたと言います。転機は、京都で開催された起業イベントへの参加でした。挑戦する人たちに囲まれ、「やらざるを得ない環境」に自分自身を追い込んだことが現在に繋がっていると振り返ります。
「この1年は、行動力だけで生きてきました」。ビジネスコンテストに積極的に出場し、賞金を獲得しながら事業を進めてきた御前さん。強調したのは、「学生起業の特権」です。「学生時代って、何回でも失敗できる。まずはイベントに参加するだけでも、何でもいいので、行動することをお勧めします」。
「学生のうちに起業するメリットはありますか?」という会場からの質問に、2人がそれぞれの視点で回答。
神野さん「就職して、スキルを身につけてから起業する選択肢もある。でも、本当にやりたいことがあるなら、先に起業したほうがいい」
御前さん「僕は断然、学生起業推し。失って困るものが少ない時期だからこそ、挑戦して失敗できる」
20代で起業したモデレーターの株式会社ミライクルラボ 代表取締役 渡邉さんは、2人の話を受けて「世の中の起業家って、メディアに出ている成功者のイメージが強い。でも実際は、死ぬほど失敗して、良質な失敗を積み重ねて、ようやくそのステージにたどり着いています」と語りました。

モデレーターの株式会社ミライクルラボ 代表取締役 渡邉涼太さん
社会に出てからの失敗は責任が伴う分、リスクが大きくなります。「その点、学生のうちは派手に転んでもまだ立ち上がれる。だからこそ、思い切り挑戦していいと思う」と渡邉さん。
“良質な失敗”を重ねることが、前に進む力になると感じられるセッションでした。
Day1の午後は、「理想の働き方」を客観的にとらえ、自己理解を深めるカードゲームに取り組みました。これから社会に出ていく中で働く姿勢や自分を表現することをゲームを通じて言語化し、人生のミッション・ビジョン・バリューを考える土台づくりが目的です。
「自分ごとでアクションする」「否定するなら代案を出そう」「仮説を持つ」など、働き方にまつわる100枚の行動指針カードから取捨選択を繰り返し、最終的に自分の理想の働き方を象徴する5枚のカードに絞ります。

選ぶ・捨てるの判断には、迷いと発見が入り混じります。「え、それ捨てるんですか!? 僕は一番大事にしてるのに…」と、優先順位の違いに驚く声も。他者の選択に触れることで、自分が大切にする行動指針に気づく姿が印象的でした。
最後は、選んだカードを形づくった原体験に、自分なりのキャッチコピーをつけるワークを実施。
講師からは、「起業家として応援されるためには、まず共感されることが大事。そのためには、自分の想いを言葉にするスキルが重要」というメッセージが伝えられました。
現代は「個の時代」。起業しても組織に属しても、自分が何に情熱を持ちどう貢献できるかを語る力が求められます。Day2では、レゴ®シリアスプレイ®を用いたワークを実施。レゴ®ブロックでお題に沿った作品を作りながら、自分の価値観や行動の理由を言語化し、内省します。整理した考えをもとに、未来の自分を語る「自己紹介2.0」に挑戦しました。

講師のカタリスキー合同会社 代表 三上浩紀さん

8者8様のアヒルが完成
最初のテーマは、「アヒルを作ろう」。たった6個のブロックでも、億を超える組み合わせが可能と聞き、驚きの声が上がります。
続くテーマは、「未知の生物」「ポンコツな自分」「ワクワクのエンジン」。作品を作るたびに、ブロックを選んだ理由をチームメンバーに説明します。たとえ無意識の選択でも、理由を言語化するのがルール。理由がなくても「あえて言うなら?」を合言葉に、作品と自分の内面を意味付けて説明します。

不安定な細長いブロック上に人を置いた参加者は、「仲間のおかげでいつもギリギリのところで踏みとどまれている自分を表しました」と語り、笑いが起こる場面も
参加者からは「特に理由のないものに本気で意味付けようとすると、自分の頭の中にある言葉が出てきて、言葉の優先順位がわかった」という声が上がり、理由を“絞り出す”プロセスこそが、価値観の可視化に繋がったようです。
「作品の話をしているはずなのに、自然と自分のことを語ってしまうのが、このワークの面白いところです」と講師の三上さん。無意識の選択を言語化することで、自分の価値観を理解できると話します。
最後に、レゴ®で可視化した価値観を材料にして「自己紹介2.0」を発表。所属や肩書だけの自己紹介では語りきれない、大切にしていることが自然と伝わる「自己紹介2.0」が完成しました。

本プログラムの実施を経て主催者である同志社大学研究開発推進機構 リエゾンオフィスの古川さんは、「レゴ®やカードなどのツールを使い、参加者同士の対話を通して内省に向かうプロセスは、自分と向き合う場をつくりやすい。起業するかに関わらず、学生が成長していくうえで有意義なプログラムになったのではと考えています」。
今後については、「今回のようなマインドセットの機会に加えて、実際に行動に移すための後押しができるプログラムをさらに整えていきたいと思っています。短期間でビジネスアイデアを集中的にブラッシュアップする場や、社会課題の解決に向けたアイデアを検討するワークショップなども検討。学生ベンチャーを対象としたピッチの機会も設けたいと考えています。競い合うコンテスト形式ではなく、協力者を募ったり、仲間を見つけたりする場として機能させるイメージです。こうした取り組みを積み重ねることで、学生が一歩踏み出し、自ら試行錯誤できる環境をさらに広げていきたい」と話します。
おわりに
起業するかに関わらず、自分が何にどのように貢献できるかを言語化することは、これからの時代を生きるうえで大切なスキルです。今回のプログラムでは、その土台となる「自分を理解し、言葉にすること」を実践しました。どの参加者も、初めての体験に試行錯誤しながらも前向きに取り組む姿が印象的でした。
お勧めの記事を読む