調査・研究活動
地域特性×民間連携が鍵~自治体の起業支援8ポイント~【イベントレポート】
公開日:2025.03.04
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起業支援の現場から
公開日:2025.07.09
「技術はある。でも、この技術を誰に届けたらいいのか分からない」。
最先端の科学技術で社会課題の解決を目指すディープテック・スタートアップ。近年同分野への期待が高まり、国をはじめ、多くの大学や自治体が事業化支援に乗り出しています。技術の社会実装が、日本経済の命運をにぎっていると言っても過言ではありません。
そんな技術シーズを持つ若手研究者たちは事業化にあたり、何に課題を感じ、その課題に対する支援をどう受けとめ、事業化に役立てているのか?
そんな問いをもとに、技術シーズを持つ若手研究者等を対象に実施された「ディープテック事業化支援プログラム」※に参加したディープテック領域の若手研究者と、同プログラムを主催した大阪産業局担当者の生の声をお届けします。
※主催/大阪府、公益財団法人大阪産業局、企画・運営/株式会社ツクリエ
あらためて「ディープテック」とは、「特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術」(経済産業省)のこと。 たとえば、人工知能(AI)、ロボット、宇宙航空、エネルギー、ナノテク、ライフサイエンスなどがディープテックの領域として挙げられます。
政府は2023年に「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、スタートアップへの投資拡大とともに、ディープテック領域の支援も強化しています。
経済産業省ではNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に約1,000億円の基金を造成し、ディープテック・スタートアップの研究開発に最大30億円(最長6年間)の補助を行うなど、長期的な支援スキームを構築しています。
国家レベルで支援環境が整備されながらも、ディープテックの事業化には依然として高い壁があるため、各自治体でも独自の支援プログラムが展開されつつあります。

そのような背景の下、技術シーズを持ち、事業化をめざす若手研究者等を対象に、大阪府と公益財団法人大阪産業局が「ディープテック事業化支援プログラム」を2024年度に実施。約3か月間、全5回(Day1~5)にわたり、用途仮説の設定から仮説検証、ビジネスプランの作成支援を行いました。

公益財団法人大阪産業局 申込募集ページより
全5回の構成は、Day1で初回ピッチを行い、Day2~4で個別メンタリングを重ね、Day5で最終ピッチを行うというもの。
個別メンタリングでは各自が課題に深く向き合い、最終ピッチで成長を可視化します。短期間の支援でも、事業化への道筋を描くことができるよう設計されています。
■初回ピッチで見えた課題
本プログラムの参加者は、書類と面接審査を通過した6者。いずれも大学・大学院に在学中の研究者や、創業間もない若手起業家です。専門領域は、ロボティクス、AI、センシング、材料工学など多岐にわたります。
初回ピッチでは6者それぞれが事業アイデアのピッチを行い、魅力的な技術とその活用アイデアが発表されました。


一方、メンターからはこんなフィードバックが数多く寄せられました。
「顧客が誰なのか、顧客の課題が何なのか。まずは”顧客の声”をたくさん拾いましょう」
届けたい人は誰か、顧客が解決したい課題は何か。技術をサービスとして市場に売り出すにあたり、それらを明確にする視点が欠けているケースが散見されていました。
参加者は皆、技術のエキスパート。これまでは技術の可能性の追求に注力してきた傾向が見られ、次のステップでは顧客視点での検証が必要と分かりました。
初回ピッチで課題を整理した参加者は、次にオンラインメンタリングに臨みます。各者に専属メンターがつき、参加者の個別の課題について対話を重ね、参加者本人に気づきを得てもらうのが目的の一つです。メンタリングを初めて受ける参加者も多く、画面越しでも緊張感が伝わってきます。メンターは、参加者が言葉に詰まり沈黙が生まれても、急かさず言葉を待ちます。
メンタリングの進め方は、6者6様です。
あるチームは、高い技術力があるからこそ、幅広い分野への応用が可能でしたが、それゆえにターゲットとなる市場を絞りきれず悩んでいました。メンターからの「なぜそれをするのか? なぜ今か? なぜ自分がやるのか?」という問いを柱に深掘りすることで、市場を明確化することができました。
別のチームでは、参加者のバックグラウンドを掘り下げたところ、スポーツ指導経験が長いことが分かり、当初想定していた事業分野からスポーツ分野へのピボットを果たしたケースも見られました。
対話を重ねるにつれて本音が引き出され、参加者が「これだ!」という納得感を持ってアイデアを整理していく様子に、メンター側も熱が高まってきます。
プログラム期間中は、参加者とメンターをチャットツールでつなぎ、日常的にサポート。
「市場調査は何から始めればいい?」「ペルソナ設定のやり方は?」といったやりとりが頻繁に行われ、参加者の事業を加速させます。
■支援者側にとってもメンタースキルを磨く実践の場
実はこのプログラムは、支援側のメンターがメンタリングスキルを実践で磨く場にもなっています。
「メンタリング」は、コンサルティングやコーチングとは異なる技術が必要です。指導者が一方的に教えるのではなく、指導側(メンター)と指導される側(メンティー)が対話を重ねる中で、メンティー本人が気づきを得るという手法です。
特徴的だったのは、どのメンターも「否定しない姿勢」を大切にしていたことです。たとえ荒削りなアイデアであっても、まずは挑戦する本人の想いに耳を傾け、一緒に壁を乗り越える方法を考える姿勢が印象的でした。ディープテック分野でのメンタリングの実践機会は限られているため、このような場が支援の質の向上につながります。
プログラム終了時のアンケート(下図)では、「技術者が陥りがちな視点の偏りに気づかせてくれた」「顧客目線の重要性がよく理解できた」との声が多く寄せられました。
また、今後のステップとして参加者の多くが、「資金調達を行う(27%)」「顧客インタビューを行う(23%)」ことを検討しているのが分かりました。

「技術に目がいきがちでしたが、ビジネスのためには顧客目線が大事だとよく分かりました」
「アピールしたい技術部分が顧客にとってどううれしいのか、技術者がより顧客に分かりやすい表現で、情報損失がなく嘘のない変換が必要であることを再認識させられました」
そう話すのは、同志社大学 大学院文化情報学研究科の木村優介さん・楠和馬さんのペアです。
2人は、児童発達支援事業所をはじめとする療育現場の課題解決に向け、専門分野であるAIとデータベースの技術を活用した、療育支援システムの事業化に取り組んでいます。
参加のきっかけや、印象に残っている出来事についてお話を伺いました。

同志社大学 大学院文化情報学研究科 木村 優介さん
同志社大学 大学院文化情報学研究科 木村 優介さん(以下、木村) 参加したいと思った経緯は、療育支援の現場では個別支援計画書やモニタリング記録の作成に多大な時間がかかる一方、ノウハウ共有や業務効率化が十分に進んでいない課題を強く感じていました。AIやデータベース技術を活かしてこの社会課題を解決したい思いから事業案を検討しましたが、視野が自分たちの研究・開発に偏っていないか不安もありました。そこで、現場目線の意見や、多様な分野の参加者・専門家から率直なフィードバックを受けてみたい、今の事業の方向性に自信を持ちたいと考え、本プログラムへの参加を決めました。実際に多くの刺激を得ることができ、次の行動への原動力となりました。
ー印象に残っているメンタリングやフィードバックは?
木村 現場の真のニーズをより深く掘り下げる重要性についてのフィードバックです。事務局経由で紹介いただいた療育事業者様との面談では、個人情報を含むデータの扱いについて、実際の現場目線からの厳しいご指摘をいただきました。技術的には匿名化やセキュリティ対策が可能でも、非技術者の方々に対して安全性やメリットをどう伝えるか、壁の高さを肌で感じました。現場で生まれる本音や不安に向き合い、単なる技術提案ではなく『現場の共感を得る説明や価値訴求の努力』が欠かせないと痛感し、コミュニケーションのあり方そのものを見直すきっかけとなりました。
ーフィードバックを経て、事業化の方針にどのような変化がありましたか?
木村 現場の声や不安を最優先に反映したプロダクト設計に大きく転換しました。AIによる効率化だけでなく、個人情報やノウハウ共有への懸念など、現場の実感や不安をしっかりと受け止め、それに対応する仕組みづくりを重視。任意参加型の事例共有や事業所ごとのカスタマイズ性など、現場ごとに寄り添った機能を設計しています。あわせて、専門用語に頼らず、現場に伝わる言葉で説明する努力を強化しました。現場の信頼を得ることが、サービスの普及・継続利用の鍵になると強く意識するようになりました。

同志社大学 大学院文化情報学研究科 楠 和馬さん
同志社大学 大学院文化情報学研究科 楠和馬さん プログラム終了後は、ディープテック領域における研究開発型スタートアップ『株式会社CognitiBase(コグニティベース)』の法人設立準備を本格化し、AI協調型療育支援システム『コグロウ』のプロトタイプ開発と実証実験に着手しました。今後はNEDO等の公的支援プログラムへの応募や、パートナー療育事業所との連携強化、現場ヒアリングを通じた機能の磨き上げを続けます。加えて、現場の課題や声に基づいたサービス拡張を重視し、事業所間のノウハウ共有や、AI・DB技術を活かした介護・医療等の他分野展開にも挑戦。日本の療育現場全体を底上げする新しい社会インフラづくりに貢献したいと考えています。
「なぜ自分がやるのか」が、最初から明確だった木村さん・楠さん。高い技術力を持っていても、「現場の声を聞くこと」「顧客(非技術者)に伝わる言葉選びをすること」が、事業化には不可欠と伝わってきました。
一方、参加者の変化を見守ってきた主催者は、どのように評価しているのでしょうか。
本プログラムの主催者である、公益財団法人大阪産業局 スタートアップ支援事業部 ディープテック支援チームの佐藤愛さんにも、今回のプログラムに対する思いや手応えを伺いました。

公益財団法人大阪産業局 スタートアップ支援事業部 ディープテック支援チーム 佐藤愛さん
大阪産業局 佐藤愛さん(以下、佐藤) 大阪産業局は、大阪の中小事業者や起業家を支援する団体で、創業支援や販路開拓支援、海外展開支援などを通じて、地域経済の活性化に貢献するべく活動をしています。その中で、私たちスタートアップ支援事業部は、『大阪イノベーションハブ(OIH)』を拠点に、国内外のネットワークを構築し、世界中から人材・資金・情報を呼び込むとともに、新たな価値創造や革新的ビジネスに果敢に挑戦するスタートアップを次々と生み出し、その成長の加速化や世界への飛躍につなげていくために、アクセラレーションプログラムやピッチイベント、企業の課題に合わせたハンズオン支援など様々な取り組みを実施しています。
ー本プログラムを委託するにあたり、どのような狙いや期待をもってお任せいただいたのでしょうか?
佐藤 全国各地でインキュベーション施設の運営や、起業家向けのプログラム実施・支援に豊富な実績を有していたこと、その知見とネットワークを活かし、参加者に手厚いサポートと的確なアドバイスを提供いただけると期待し、本プログラムの委託先としてご依頼させていただきました。

ープログラムを通して特に印象に残った参加者の変化や、支援の手ごたえを感じた瞬間はありましたか?
佐藤 今回の参加者は若手の研究者や起業家が中心で、プログラム初期は緊張した様子も見受けられました。初めてのメンタリングに戸惑う場面もあり、受け入れるのが難しいメンターの意見もあったかと思いますが、プログラム終盤には、起業や事業を進めるうえで何が必要か、それぞれの課題が明確になり、前向きな変化を感じることができました。
ー主催者の立場から、プログラムの運営体制において良かった点や印象に残った点を教えてください。
佐藤 若手研究者に常に真摯な姿勢で寄り添い、イレギュラーな事態にも迅速かつ的確にご対応いただき、終始安心して運営をお任せすることができました。特にピッチの運営時には、事務局のメンバー間の連携の良さが随所に感じられ、円滑な進行に大きく寄与いただきました。
ー今後、関西圏でディープテック支援をさらに充実していくために、特に強化が必要だと感じる支援分野や課題はありますか?
佐藤 シード期の資金調達支援と専門領域の伴走支援が特に重要です。ディープテック分野は研究開発期間が長く、事業化までのハードルも高いため、知財戦略や規制対応、市場開拓など多面的な支援が必要ですが、現状は十分とは言えません。投資家や事業会社との接点も不足しており、早期からのネットワーク構築機会の拡充が求められます。
主催側のお話からも、ディープテック分野における継続的かつ多面的な伴走支援の重要性がうかがえます。
今回のプログラムを通して、事業化をかなえるために重要だと感じたことがあります。確かに顧客へのヒアリングや、技術の使いどころ(領域)を見極めることは欠かせないのですが、それ以上に重要なのは、「なぜ自分がやるのか」という根本的な動機です。「なぜ自分がやるのか」を参加者が言語化できたその瞬間から、事業化への取り組み方が大きく変わる様子を肌で感じました。明確な動機が、社会実装への近道になる。ディープテック領域に限ったことではありませんが、技術の追求に没頭するとつい見失いがちな視点に気づいてもらう仕掛けが、支援のポイントの一つになると今回わかりました。
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