起業の潮流
活況な日本の大学発ベンチャーの現状と課題~多産多死型のアメリカ、廃業しにくい日本~
公開日:2024.12.06
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起業の潮流
公開日:2026.01.27
近年、研究者等が保有するアイデアや技術の“種”=シーズ(Seeds)を社会実装させる取り組みが起業界隈でも進んでいます。
中でも、大学発ベンチャーは活況であり、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が全国の大学や公的研究機関等から創出された研究成果の社会還元、技術移転の促進、および実用化に向けた産学連携等のマッチング支援の実施を目的に、2025年8月「大学見本市2025〜イノベーション・ジャパン」を開催。日本全国の大学等(※1)機関から特許出願済みの技術シーズをJSTが公募・選考し出展する「大学等シーズ展示」は6分野、291件におよびました。
大学見本市を通じて見えてきたことは、日本の大学が社会課題解決に本気で挑んでおり、それに伴う研究シーズが豊富にあることです。
しかし、その豊富な可能性と高い熱量の裏で、起業支援側の課題も浮かび上がってきました。課題とは、優れた技術の種を社会実装するにあたり、研究者と支援者の間にギャップがあることです。
研究機関の実態に触れながら、研究者と支援者のギャップを埋めるためにどんなアクションを取るべきか紐解いていきます。
※1 大学等:大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関のこと。
出典:大学見本市~イノベーション・ジャパン
「研究シーズが豊富にある」という現場の熱気は、データによっても裏付けられています。
2025年3月に経済産業省が発表した「令和6年度技術開発調査等推進事業 大学発ベンチャーの実態などに関する調査(調査受託:日経BPコンサルティング)」によれば、2024年度の大学発ベンチャー数は、過去最多の5,074社に達しました。前年度からの増加数も786社と過去最多を記録し、2014年度以降、企業数は毎年増加傾向にあります。

分野別に見ると、最も多い業種は「IT(アプリケーション、ソフトウェア)」の1,592社、次いで「バイオ・ヘルスケア・医療機器」の1,434社となっています。
※「その他サービス」を除く

さらに注目すべきは、大学発ベンチャーが生まれている地域です。
地域別では関東地方(2,708社)、次に近畿地方(949社)が多い状況です。増加率は近畿地方が最も高く、対2023年度比123%、次いで関東が120%となりました。

2024年度の数字を都道府県別で見ると、東京都(1,936社)が突出しており、大阪府(384社)、京都府(305社)、神奈川県(261社)、愛知県(193社)といった地域が続いています。

大学別の増加率に目を向けると、関西大学が対2023年度比522.2%という驚異的な伸びで1位になっているほか 、神戸大学(205.5%)、京都大学(154.6%)、近畿大学(145.7%)などもトップ10に入っており、関西圏が大学発ベンチャー創出のホットスポットであるかがわかります。

このデータは、関西圏の研究機関が持つ「基礎研究の体力」が、今まさに社会実装という形で花開こうとしていることを示しています。
躍進の背景には、近年存在感を増してきた、研究成果を「社会に出せる技術」に育てるための支援制度「GAPファンド(※2)」や、大阪府が設置する社会実装ワンストップ窓口「SEEDS LINK(シーズリンク)」のような、地域のシーズをきめ細かくサポートする支援体制の充実も一つの要因として考えられます。
※2 GAPファンド 研究成果を「社会に出せる技術」に育てるための支援制度。主に大学や自治体、あるいは国の研究支援機関(NEDO、JSTなど)が運営している。
大学発ベンチャー企業が年々増加しているなか、支援者は「すべてのシーズを、Jカーブを描く急成長スタートアップの型に当てはめようとしていないか?」という問いを持つ必要があります。
昨今の支援トレンドは、大型の資金調達やIPOに注目が集まりがちです。もちろん、それらが経済に与えるインパクトは計り知れません。一方で、研究者全員が急成長を望んでいるとは限らないことも視野に入れておく必要があります。
同調査で「出口戦略」については、「IPOしたい」が25%、「売上規模や従業員数の拡大を目指したい」も25%。その他、14%が「M&A」を目指し 、4%が「現在の売上規模や従業員数を維持できればよい」と回答。そして、25%は「特に考えていない」と答えています。
つまり、少なくとも4分の1の研究者は、Jカーブを描くゴールを現時点で設定していないのです。

半数の50%が「IPOしたい」「売上規模や従業員数の拡大を目指したい」と成長拡大志向ですが、「特に考えていない」25%の研究者には、社会実装の多様なゴールを提示する必要があります。すべからく「IPOを目指すべきだ」「大型調達こそが成功だ」という価値観を促すと、研究者によっては負担となり、社会実装への意欲を削ぐ場合もあります。
社会実装の形は、以下のような多様なゴールが考えられます。
実際に、こうした多様なゴールを前提とした支援の動きも始まっています。
たとえば、大学の研究開発課題を支援する「IJIE-GAPファンドプログラム2025」では、従来のJカーブ型成長を目指す「スタートアップ枠」に加えて、新たに「インパクトビジネス枠」が設けられました。
インパクトビジネス枠は、大学等の研究成果をもとにしつつ、社会課題解決型のソリューションや、持続可能性を重視するソーシャルベンチャーなどを志向するスタートアップを支援するものです。
IJIE-GAPファンドプログラムのように、支援者は画一的な成功イメージを押し付けるのではなく、研究者の情熱が向かう先に応じた複数の選択肢を用意することが、社会実装の成功率を高める鍵となります。
支援者は、研究者の技術特性や、何よりも研究者自身の「何をしたいのか」「何に困っているのか」という本音に寄り添う「対話」を通じて、それぞれのシーズにとって最適な社会実装の手段を一緒に見つけ出す必要があります。
では、研究者との「対話」を担うのは誰でしょうか。大学の産学連携機関や公的機関の相談窓口、もしくは民間の起業支援会社でしょうか。
ここで再び、同調査のデータを見てみます。大学発ベンチャーの創出・増加に向けて「特に不足している環境」は何かという問いに対し、最も多くの企業(30%)が「コーディネート、伴走支援人材」と回答しました。
「ウェットラボ施設」(16%)や「研究実験機器・設備」(23%)といったハード面の不足を上回り、「人」の不足が最も大きな課題として認識されているのです。

研究者が「支援を受けたもの、効果があったもの」として最も多く挙げたのは「施設・設備の利用」(57%)や「ビジネスプランに関する助言」(37%)でした。つまり、場所や一般的なアドバイスは、すでにある程度提供されているのです。

研究者が本当に求めているのは、場所の提供や一般的なアドバイスの一歩先です。
自分たちの技術の論理を、企業や市場が求める価値の論理へと翻訳し、事業化のプロセスで生じる課題解決に伴走してくれる人材、すなわち「コーディネーター」の存在です。
たとえば、大学発ベンチャーがアライアンスを組む相手は、「大学・公的研究機関」が58%(研究段階)と突出しています。一方で、「大企業(国内)」との連携を希望する声は40%あるものの、実績は29%に留まります。このギャップを埋め、企業との翻訳を担うのがコーディネーターです。

また、大学発ベンチャーは博士号取得者の在籍率が非常に高い(例:バイオ・ヘルスケア分野で27%、素材分野で29%)一方で、採用のきっかけは「社員の個人的つながり」(290件)が最多であり 、公的な採用システムが機能しているとは言い難い状況です。
こうした「つながり」を補完し、研究者が研究に専念できる環境を整えることも、伴走支援者の重要な役割です。


大学発ベンチャーの数が5,000社を超え、関西圏のようなホットスポットが生まれるなど、日本の研究シーズのポテンシャルが花開きつつあることは間違いありません。
しかし、これまでになかった社会課題解決のための種を無理に型にはめると、可能性の芽を摘むことになってしまうでしょう。
研究者の情熱と長年の努力の結晶である技術が、社会課題の解決という形で実を結ぶためには、支援者のあり方が問われています。
研究者にとって信頼できる「最初の相談相手」となり、Jカーブだけではない多様な選択肢を提示できるように。最適な社会実装の形へと導く翻訳者であり、伴走者であり続ける必要があります。
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